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三重県津市でヨガを教えています。ヨガのことだけでなく、日々のいろんなことを書いていきます。


by NAO
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『夏から夏へ』 佐藤多佳子

『一瞬の風になれ』の佐藤多佳子初の書き下ろしノンフィクションは、北京オリンピック男子4×100メートルのリレーチームの、2007年世界陸上から北京に向けてを描いた作品だ。となるとこれはもう、読むしかない!

で終わってしまうのもナンだからもう少し付け加えておこう。まさに蛇足。

まだ記憶に新しい北京オリンピックの銅メダル。日本は、アメリカやジャマイカといった強豪国とはまったく違うアプローチでそいつをもぎとったということがこれを読むと良くわかった。ひとことで言えばリレーの練習をするかしないかということだ。個人の力がずばぬけているがゆえにリレーにあまり力を入れられないアメリカやジャマイカ(北京ではどちらもバトンパスがうまく行かず決勝には進めなかった)といった国の選手たちも、もしこれを読んだらリレーという種目の全く異なる魅力に気が付いて「オレたちももっと練習しようぜ」って言い出すかもしれない。日本人としてはそうならないことを祈るばかりだが。

この作品が取り上げている期間は2007年8月大阪陸上から2008年春までなので、これが書かれた時点では当然まだ北京での結果も出ていないし、それどころかオリンピックでリレーを走るメンバーも確実には決まっていない状態だ。

出版されたのが7月30日なので、出てすぐに読んでいればオリンピックを見るときのいい予習になったし気分も盛り上がっただろうが、不幸にも私がこの本の存在を知ったのは先週末のことだった。
この本はすごくおもしろいのだが、読後、少々山場に欠けるなと感じたのはあくまでも北京オリンピックという最大の山場の直前で筆が置かれているためだろう。これを読んで、北京を見た。なら最高だったのに。

というわけで著者にリクエスト。今度は2008年春から夏のノンフィクションを書いてください。それも今すぐに。

印象に残ったことなど。

2走のポジションで待っている時、1走がスタートを切ると「原付バイクが全速力でブーンと走ってくるのを構えて待っているみたいで恐い」(末續)のだそう。
3走の高平によると、2走の末續を待っているのは「野球を出来ない人がキャッチャーをやらされて150キロのボールを受けるようだ」ということだ。そんなにすごいものなのか。

伊東浩司によると、持って生まれた身体の素質というベースが必要なのは、100メートルだと11秒前後くらいまでの話、なのだそうだ。「素質だけで10秒0というのは聞いたこともない。10秒5くらいで走る人はいるかもしれないが、そこから先はそれぞれの努力が必要になってくる」。
これには驚いた。私はまったく逆のことを思っていたからだ。11秒切るくらいまでは努力で、そこから先はただ持って生れた肉体の素質オンリーの世界だと思っていた。
これが事実だとすると、なにか勇気の出てくる話ではないか。自分もがんばれば何かできるかもしれない、という気がしてくる。今から100メートル11秒で走れるわけはないけれど、まあそれ以外のことででも。
by wumingzhi | 2008-09-26 23:17 | 読書