日々のこと


by wumingzhi
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さよならBaby 8 退院

看護士さんが夫を呼びに行ってくれた。
前回麻酔から覚めたときは泣き喚き絶叫してしまったので、今回はとにかく「冷静に、冷静に!」というのが私のテーマだった。
理想を言えば、手術室に行く前に夫と話していて、手術が終わって麻酔から覚めてまたすぐその続きを夫と話す、というようなのを目指していた。



さすがに話の続きを、というわけには行かなかったが、今回は麻酔をケチられていたこともあり(そのほうが体の回復にはいいんでしょうから、別に恨んではいませんが)、比較的冷静さを保てたと思う。
 
しかし冷静であろうとなかろうと、やっぱりおなかは痛かった。痛い~、痛い~とうめき、夫に手を握ってもらう。

先生が来たので夫が、
「明日車で長距離移動は無理ですかね?」
と訊く。土曜日は名古屋で中国語の授業。私は行く気マンマンでいたのだ。
「それはやめておいたほうがいいでしょうね」と先生。
下から私がか細い声で、
「でんしゃ…は…? べんきょうは…?」
と訊く。夫が、名古屋で教室があることを簡単に説明する。
それは見送ったほうがいいということになる。

しばらくして先生が小さな瓶に入ったものを持ってきて見せてくれた。赤ちゃんの組織らしかった。
私はそのときのやりとりをあまり覚えていないので後から夫に聞いたが(不確か)、胎嚢の中に赤ちゃんは入っていなかった、とのこと。流れてしまったのか、あるいは子宮外妊娠か。ここにきてもまだ子宮外妊娠は付いて回るのである。
しかしいくらなんでももうそれはないと私は断言する。もし子宮外妊娠のため明日緊急手術する、と言われても絶対無理、もう体力も気力も根性も尽きた。

意識が戻り気持ちがしゃんとしてくると、リカバリー室が寒くてしかたがなくなってきた。薄い術衣に薄いタオルをかけてあるだけで、最初部屋には暖房が入っていなかった。夫に言ってつけてもらう。それでもちっともあたたまらない。手がとてもつめたくなってくる。おまけにストレッチャーが堅くて寝心地が悪いことこの上ない。
もし出産直後の人がここで数時間休むとしたら気の毒だ。大偉業をなしとげた人にはもっと寝心地のいいベッドに寝かせてあげたいと思った。

これは早く回復してしゃんとしたところを見せて病室に戻るしかない、と思った。ナースコールで呼んで、もう大丈夫だと思うから、と言った。
まずトイレに行きましょう、となった。あまり尿意はなかったが、術後にトイレに行くところをみせないと病室に戻してもらえなさそうだったので行った。出血はそれほど大量ではなかったのでほっとした。
 
5時頃、病室にもどり、自分の寝巻きに着替える。

夕飯を食べて、食べられたら退院、と決まっていた。実は退院したら夫と何かおいしいものを食べに行きたかったのでここの病院食を食べるのはあまり気が進まなかったが、食べないと許してもらえなさそうだったので、食べた。
おかずを適当に食べて、夫にも食べさせた。相変わらず薄味だったが元々量が少なくて、まだまだ食べられそうな感じだった。

食事も入ったことだし、やっと退院できることになった。
 
午後7時、病院を後にした。がっくりと疲れた。まるで小さなお産をしたあとのような感じ。2年前のときはこれほど疲れなかったと思う。手術の翌日にはカラオケに行ったり買い物に行ったりしていたし、1週間後には大阪に行ってライブの手伝いをしたりしていた。
 
二年で格段の体力の衰えを実感した。

この日の手術前の空き時間に廊下を歩いていたらナースステーションで看護士さんが赤ちゃんを抱っこしていたので近くで見せてもらい、ちょっと触らせてもらった。その子は生後10日目だそうで、黒々と髪が渦巻くように生えていて、眉から額の生え際まで一面に濃く産毛が生えていた。実は私もそうだったので親しみを感じた。
小さいながらもその手や足や、存在のすべてから、とても大きな生命力を感じた。
 
妊娠して赤ちゃんを産むということは普通の人たちにとっては当たり前のことなのに、と自分をひがむ気持ちがずっとあったが、その赤ちゃんの大きな生命力と存在感に触れて、やっぱり卵子と精子が受精卵になって、おなかのなかで大きくなって、この世に生まれてきて泣いて、息をして、おっぱいを飲む、ということはとてつもなく大きなエネルギーを必要とすることなんだな、と思った。
私と夫くんの赤ちゃんには、そのエネルギーが足りなかったんだね。仕方のないことだったんだな、とその子を見てなぜだか納得できた。
 
老夫婦みたいな境地に到達している私たちだけれど、これから運動したり栄養を摂ったりして体力をつけてまたがんばろうね、と車の中で夫と約束しあった。
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by wumingzhi | 2005-03-19 14:29 | さよならBaby