日々のこと


by wumingzhi
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さよならBaby 3 『棒』

入院は3時の予定だったが、3時20分病院着。6階の病棟に行くとナースステーションに先生が居て、
「お待ちしてました」

待たんでよろしい! いや、失礼、遅れてスミマセン。
それからまた手術の詳しい説明を聞く。
 
今夜行われる前処置は、子宮口を開くために棒を入れるのだという。他にもいろいろ説明があって、最後に
「何かご質問はありますか?」
と訊かれた。
 
同種の手術なら以前受けたし、麻酔があるからそれは痛いと言っても想像を絶するような痛みではない。むしろそれは想像外の経験である、と言ってもよろしい。だから当面の問題は、その『棒』なのだった。

 



前のとき私は『棒』はやっていない。
 
そしてこれまた内田春菊の小説だったが、中絶手術のときにやはり子宮口を開くための棒を入れ、その棒の本数を増やしていって最終的には10本くらい入れて…というのを読んだことがあるような気がする。それともそれは小説ではなしに友人の話だったか。いや、友人は棒ではなくて風船だったか。 
 
とにかく私は気になっていたことを訊いてみる。
「あのう…棒を入れるって言いますが、それって痛いんですか?」
「ちょっと痛いです」
と、やや申し訳なさそうに先生。
 
がっくり。やっぱり痛いんですか。
 
体外受精のときの受精卵移植やAIHの経験で(私もイロイロやってる人ですなあ)、子宮口を開くのが痛いのはわかっているのだ。しかしやっぱり痛くない処置であって欲しかった。が、そう調子よくは行かない。

「じゃあちょっとお見せしますね」
と言って先生が持ってきて見せてくれたその『棒』は、直径1センチにも満たない。パッケージに入ったままだったので外からはわからなかったが綿棒のような材質らしい。ということはタンポンみたいなものか。それを10本ではなく、1本だけ今晩入れる。
翌朝別の『棒』を入れ替える。それは最初のよりもっと細いが、海草でできていて膨らみ、最終的にはボールペンくらいの太さになるという。

10本ではなくて1本だけなんだから楽勝楽勝! いやいや、受精卵移植やAIHのとき使う管は注射針に毛の生えた程度の太さなのにそれでも死ぬほど痛いんだから(管を入れるのが痛いというより入れるために子宮口をこじ開けるのが痛いんだけれど)、ボールペンくらいの太さっていうのはどうなんだろう。未知の領域である。
 
書類に記入するときいろいろ説明してくれた看護士さんは、私が最初この病院で検査を受けたときに会ったことがある人。豊満な体格で明るくて面白い感じの人だった。ウキウキして診察を受けた最初の病院で子宮外妊娠とか流産とか言われてショックだったことをこの人についぶちまけて、ちょっと気持ちが治まったのだ。またこの人に会えて少し落ち着けた。

この人が説明の中で「おケケをちょっと剃らしてもらうこともあります」と言う。真面目な文脈の中で真面目な顔してオケケとか言うのがおかしくて仕方がない。

妙なのだけれど、こんな状況のときでもやっぱり物を食べたり、おかしくて笑ったりしてしまうものなんですね。それは私がまだ本当に打ちのめされていないだけなのかもしれないけれど。

書類を記入して、5時までに受付に提出しなければならないものが1部あったのでそれを夫に急ぎ持って行ってもらう。
その間に私は病室で寝巻きに着替える。病室は4人部屋で、私を入れてその部屋は3人になった。

着替え終わると、午後4時30分、さっそく処置室に移動して内診台で『棒』入れ。

子宮口を何かの器具で押し開ける。見たことがないのでわからないので私の想像の世界だが、髪留めのくちばし型クリップみたいなものだろうか。いや、まったくの想像ですが。これが痛いのである。
「機械が入ります。ちょっとちくっとします」と先生。
いや先生、それ違いますって。ちょっとちくっ、どころではない。
 
診察台の上でついうう~、うう~とうめいてしまう。入れるならはよ入れてくれ~。くちばしクリップ(想像)を入れたら間髪を入れずに棒を入れてくれ~。クリップを入れてから棒のパッケージを切ったりせんと、はよ入れてんか! と口に出しては言わないが、とにかく痛くてたまらないので心の中で訴えていたわけである。
 
で、棒が入った。そしてこれがまた痛いのなんの。
くちばしクリップ(想像)でこじ開ける痛みは筆舌に尽くしがたい痛みだ。ぶつけたりケガしたりしたときの痛みとはまた別種の不快な痛みである。
『棒』はそれとはまた違うのだが、とにかく痛い。子宮に『棒』が刺さっているだけでおなかから胸にかけていっぱいになり、吐き気がこみ上げてきた。

なんとか診察台から降りて病室までがにまた・猫背でよろよろと歩いて戻った。ざんばら髪でもあるし、後姿の私は落武者そのものだったろうと思う。とても脚を揃えてしゃんしゃんとなんて歩けやしなかった。

やっとのことでベッドに横になった。変な格好になると『棒』が変なところに刺さりそうで怖い。あと、『棒』が奥まで入り込んでしまったり、子宮の壁を突き破ったりとかはないのだろうか。『棒』の長さは10数センチくらいだったけれども。
 
ほどなく夫が病室に戻ってきた。書類を出して帰ってきたのだ。帰ってきたら私が苦しそうにベッドに倒れているのでちょっとびっくりしたみたい。
 
仰向けになったり横になったりして体勢を変えても何しても辛い。第一寝返りを打つことが辛い。看護士さんは、
「生理痛みたいにおなかがしくしく痛みます」
と言ってたけど、これ生理痛ちゃうやろー。
 
夜痛くて眠れないときは睡眠薬を出すと言っていた。

ゼッタイ眠れないこと確実。
睡眠薬の前に鎮痛剤とかはないんか。バファリンくれ、バファリン。
 
つうかそれ以前に『棒入れ』になんで麻酔がないんだ?

夫が横にいるので、「イタイ~、イタイ~」と唸る。別に夫を心配させたいためではなくて黙っていると余計に辛いためで、一人で唸っていると同室の人たちに変な人と思われるのが心配だったからだ。

6時から夕食だが、まず食べられないと思った。食欲どころか吐き気がするし、第一ベッドから起き上がれない。
「おおごとになってしまったのう…」
 とついついぼやく。どうせ受けたくない手術なら麻酔して手術して帰宅、みたいになるべく簡単に済ませたかったのに。

『棒』入れなんて、週数が進みすぎて小さなお産のようにさせる人が受ける処置だと思っていたのに。今回は7週で、前回のときよりまだ週数が少ないくらいなのに。なんでこんな目に会うんだあ~。
おなかがぱんぱんにふくれて(元々所有してるおニク? ん~、それもあるかも)、体がとても熱くなっている。発熱したようだ。子宮に1センチ足らずの棒が一本入っているだけで、体ってこんなに反応を示すのかと思うとちょっと感心したりする。いや、実際は感心しているような余裕はなかったわけだが。
 
昼間、もし今度赤ちゃんを授かって無事出産できるのなら私は陣痛や分娩の痛みなんて笑って耐えられる、と夫に向かって豪語したばかりだ。しかし出産時は子宮口が9センチ開くまで待つという。この棒の直径が1センチ足らずだから単純に考えても子宮口だけでもこの10倍の痛み…。
 
だめだ。笑って出産、絶対無理です。却下。前言撤回します。

それともあれかな、出産時に子宮口が開くのは無理やりすることでなしに自然の摂理なんだから、痛いと言ってもまた別の痛さなのだろうか。まあいいや、とにかく『棒』でこんなに痛がってる人が今更何言っても説得力なし。

先生は、赤ちゃんがだいぶ下がってきていたのであるいはこの処置だけで出てしまうかもしれません、と言っていた。もしそうなったらうまくすれば明日の手術は受けなくても済む。今はそれに縋って『棒』に耐えるしかないのだ。

1時間後の5時半、看護士さんが顔を出して具合を訊いてくれた。
「おなかは痛みますか? どう?」
 
痛みますかですと? 痛いの痛くないのって、こんなの絶対夜寝られまへん…と答えようとしたとき、ハタと気が付いた。
 
おなか、痛くなくなってる?!

「もう大丈夫です」
と答える。『棒』を入れて1時間経ち、どうやら子宮口が開いて『棒』の直径にフィットしてきたらしい。『棒』による痛みはもうなくなっていた。あるのはただ、「タンポンが変なところまで入りすぎちゃった! どうしよう!?」的なものごっつい違和感のみ。いや、この違和感も普通だったら病院に行きたくなる程度のものだろうけれど、さっきまでの苦しみと較べたらこんなもの、もう屁とも思わないカラダになってしまっているのだ。

これで睡眠薬なしで眠れるわい、と思った。どうせ痛くなくても手術前夜の病院でよく眠れるわけないのだから眠り薬でバッタリと寝てしまいたい気もしたが、やはり薬にはあんまり頼りたくないのです。

おそるおそるトイレに行く。膀胱が刺激されているのか尿意はとても感じるのだが、いまいち腹筋に力が入らず、尿の出が良くない。出血はあまりない。手術なしで済まそうというのは甘い考えであったか。
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by wumingzhi | 2005-03-19 14:19 | さよならBaby