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三重県津市でヨガを教えています。ヨガのことだけでなく、日々のいろんなことを書いていきます。


by NAO
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シューズボックスの中の手紙

娘のバレエのレッスンを見学しているとき、教室のママ友がこんなことを言い出した。
「5年位前京都のデパートで夫のラルフローレンの靴を買ったときの箱をこないだ捨てようとして、中を開いたんですけど…」 

靴の入っている箱は、外側が綺麗なツルツルした紙になっていて、断ボールを折りたたんで作ってある。その箱を解体しようとしたときのことを話し始めた。
「折ってあるところを開いたら、中になんか外国語が書き付けてあったんです」




説明書とかではなく、手書きの文字が書き付けてあったらしい。
「中国語か韓国語やと思うけど、なんかそれ見たら私、ゾーっとしてきて、捨てるに捨てられなくて」と言う。
「ちょっと待って。中国語と韓国語、全然違うやん。中国語やったら漢字やし、韓国語やったら漢字は入ってへんから、中国語か韓国語かくらいはわからへん?」と私が訊くと、中国語かもしれない、と言う。
 彼女は、その箱に書き付けた文章が、「この商品を買った者に呪いあれ!」的なものだったり、それかもしかしたら箱工場で働いている人が外部の人に何かを伝えたくてメッセージを書いたのかもしれない、と思ったそうだ。確かにそれは気になる。捨てたくても捨てられないかもしれない。

中国語だったら少しはわかるかもしれないので、その箱を持ってきてちょうだいと彼女に頼んでおいた。
 
私もその話を聞いて、少し思い出したことがある。小学校のときの国語の教材で、『セメント樽の中の手紙』という小説を読んだ。
内容は、セメント樽を開けたら手紙が入っていて、読むとそれはそのセメントを作っていた工場で働く人の家族が書いたものだった。セメントを作っていた人は作業中、機械に巻き込まれてセメントと一緒に粉砕されてしまった。遺族はその事故のことを世間の人に知ってほしくて、この手紙を書いてこっそり樽に忍ばせます…そんな内容の社会派小説だったと思う。

その箱に書かれているのが中国語だったとして。中国のどこかの地方の工場で、過酷な労働条件で搾取されている女工さんが、血の滲む思いで書き付けたのかもしれない。女工さんとは限らないが、なぜか私の脳内では既に女工さんになっているのである。彼女は箱を組み立てるだけ。1日16時間、箱を組み立てる仕事を一生続けても、ラルフローレンの靴なんか買うことはできないのだ。私の脳内ではもうすっかり、そんなストーリーが出来上がっていた。

バレエママは翌週、持ってきてくれた。

開いて見ると、果たして中国語だった。香港や台湾ではなく、簡体字、大陸の中文である。4行に渡って走り書きのように斜めに書かれている。

なかなかの達筆ではあるが、手書きのクセもあり、読み取れない部分が何箇所かある。けれど、最後の部分が「一生平安」と読める。不吉な内容ではなさそうである。携帯で撮影させてもらい、家に帰ってじっくり考えることにした。


  相知年年岁岁
  ○○○在身○也○心意
  ○○相逢是苦是甜如今○杯祝愿
  ○人一生平安

○の部分は読み取れない箇所である。
辞書を引き引き考えて、こうかなと思った。

  相知年年岁岁
  ○○○在身边也曾心意
  沉沉相逢是苦是甜如今举杯祝愿
  ○人一生平安

そのうち、かすかに文字の間にピリオドがあるのに気付いた。

  相知年年岁岁
  ○○○在身边.也曾心意
  沉沉.相逢是苦是甜.如今举杯祝愿
  ○人一生平安

段落をそろえるとこうなる。

  相知年年岁岁
  ○○○在身边
  也曾心意沉沉
  相逢是苦是甜
  如今举杯祝愿
  ○人一生平安

これは中国の詩か、歌詞なのかもしれない、とようやく気付いた。堪能な人ならぱっと見ただけで気付くところであろうが。
そこでネットで検索してみたところ、出た。わかりました。


李娜という中国人歌手の「好人一生平安」という歌だということがわかった。1990年の大ヒットドラマの主題歌らしい。
シューズボックスの走り書きは実際の歌詞の1番と2番が混じっていたりして正確ではない。でも、走り書きの文字はこう書いてあったのだっだ。

  相知年年岁岁
  仿佛就在身边
  也曾心意沉沉
  相逢是苦是甜
  如今举杯祝愿
  好人一生平安

特に前半部分が入れ替わっていて訳しづらいが、後半は、
「心沈むときも 苦しいこと楽しいことに出会う
今は祝杯を挙げて 良き人の幸せを祈りましょう」
というような意味なんだろうか(間違ってるかも)。

正しい歌詞の載っているサイトをいちおう挙げておきます。
http://bitex-cn.com/aboutchina/song/song_authorshow_1_103.html


というわけで、不幸の呪文でも命がけのメッセージでもなかった。
工場の休憩時間かなんかに、ふと歌詞を思い出して、そこらへんにあった紙になんとなく書き付けてみたのだろうか。そこらへんの紙ってのが商品だったわけだが、折り込むからわからないでしょ、くらいの感覚かな。

ちょっぴりドキドキしたがなあんだという結末だったが(いや、実は何かすごい暗号が隠されているかも?)、ミステリー小説を読み解くような楽しさがちょっぴり味わえた出来事だった。
by wumingzhi | 2011-11-19 10:00 | 生活